特別解説・南伊勢町の壁画『調和と教え』-1

特別解説・南伊勢町の壁画『調和と教え』

全長50m!防波堤に描かれた町への想い

- 2019年4月 -
雄大な山々と煌びやかな海。
豊かな自然に囲まれたまち、南伊勢町。

そんな南伊勢町の防波堤に
この土地の歴史や伝統、
自然の豊かさと美しさが
壁画として描かれました。

南伊勢町神前浦(かみさきうら)にある
漁港の防波堤に描かれたこの壁画は
「調和と教え」と名付けられました。

- 2022年3月 -
壁画がさらに拡張され
縦5メートル・横50メートルの
大きな壁画となりました。

お祭りや太鼓、提灯、御船、弓引きなど
この地域が持つ文化的豊かさを
動きのある色彩と形で表現されています。

現在では観光客など多くの人が立ち寄り
SNS等でも発信され、
新たな観光スポットとして注目されています。

今回はこの壁画の製作者である
長尾 洋(ながお よう)さんから、
特別にご本人の解説付きでご紹介します。

 

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世界で活躍するアーティスト・長尾洋さん

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長尾 洋 - Yoh Nagao
 愛知県出身・名古屋造形大学卒
 NY、LA、パリ、ベルリン、ロンドン、メキシコシティなど世界各地の作品展、アートフェア、フェスティバルで作品を発表し、広告では名古屋パルコ、JRA中京競馬場年間キャンペーン、欧州アシックスのキャンペーンビジュアルも手がける。
 また作品制作だけでなく世界で今なお先住民的生活を営む人々が住む国や地域を訪れ、ホームステイやフィールドワークも実施している。現在は地元愛知県を拠点に国内外で活躍中。
 

長尾さんは世界各地を回って
若手育成のためのワークショップの開催や
壁画制作をおこなうなど、
世界で活躍する
現代アーティストの一人なんです!

壁画制作にいたるまで

2019年に最初の壁画が描かれ
続きの壁画制作に取り掛かかろうとした年のこと。

新型コロナウィルスが猛威を振るい、
町のお祭りや神事が立て続きに中止になるなかで
壁画制作も例外ではありませんでした。

長尾さん;
 南伊勢町には何世代にもわたって継承されてきた神事やお祭りがたくさんありますが、2020年からのコロナ対策として立て続けに延期や中止となってしまいました。
 その一方で都市部での音楽やスポーツなどの商業的なイベントの多くは早々に復活しました。
 これまでも伝統離れなど呼ばれてきましたが、この数年でさらにそれが加速してしまったように感じます。

 このような社会情勢のなか、この南伊勢町に何を残せるかを考えた結果、それら中止となったお祭りや神事をモチーフにすることにしました。
 元々イラスト的であったり広告っぽくなるような表現は避けてきましたが、今後何年か経った頃に『この壁画がかかれた年はこれらのお祭りが中止になった年、それを忘れない為に描かれた』そんな形で残ってくれればと思い、まちづくり推進課の担当小山さんから資料を提供してもらい原案作りが始まりました。

制作フローについて

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最初は簡単なスケッチで
各モチーフの形を大まかに取っていき、
そのあとハサミで折り紙を切って
それぞれのパーツを作っていきました。

それらをパソコンに取り込み、
横長の壁画に合わせてレイアウトして
全体の完成イメージを作り上げました。

これらは下地として
最初に白く塗られた壁面の上に
1メートル四方の罫線をひき、
それに合わせて下書きを書き写すことで
大きく引き伸ばして転写させています。

明治から続く*古和浦祇園祭*

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明治から続く悪疫退散を
祈願する、古和浦祇園祭。

祭りで登場する御船と、
その船の装飾に描かれた三つ巴の家紋。
そして御神灯と記された大きな提灯も
シンボルとして、となりの浅間祭の扇子に
並べて描きました。

今なお力強く残る伝統 *方座浦浅間祭*

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神前浦の西隣にある方座浦(ほうざうら)には
日の丸がついた扇をくくりつけた竹を担ぎ、
山を登る200年以上の歴史のある
富士山信仰に基づいたお祭りがあります。

その竹と扇子、そして太鼓を叩いて
お祭りを盛り上げている様子を表しています。

豊かな自然とその驚異を描いた *調和と教え*

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2019年、中央に描かれたのは
この壁画「調和と教え」の原点となった部分。

この地域に見られる、自然、生き物、波。
そして神話に現れる龍の一部など
様々な要素が交わって描かれており、
豊かな自然に溢れるこの地域と
またその脅威をも同時に表現しています。

無病息災・豊漁祈願の象徴 *天王祭*

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神前浦、南島地区を象徴する
無病息災豊漁を祈願する祭。

ここにも御船が登場し、その上に乗って
法被を着て太鼓を叩く姿も
大きく表現しています。

土地の歴史を彩る *弓引神事*

  • 土地の歴史を彩る *弓引神事*-0
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1月から2月にかけて実施される
南島の鵜倉地区を代表する行事。
大きな弓と矢が放たれている様子を描きました。

そのほかにも仙宮神社にまつわる龍、
そして町内にたくさん点在する
神社を象徴する鳥居。

阿曽浦(あそうら)と
慥柄浦(たしからうら)を結ぶ、
南島大橋・阿曽浦大橋の親子橋。
そして河内地区の小学校跡地にある
銀杏の大木なども描かれているので
探してみてください。

南伊勢町の壁画『調和と教え』のこれから

長尾さん;
 この壁画は2022年秋にさらに50メートル分が描き足され述べ100メートルとなる予定で、すでにとても楽しみでなりません。
 私のような芸術家、また芸術や文化に携わる人間は数字や文字以外の情報を非常に大事にしていますが、それは可視化しにくく、人に上手く伝わらなかったりします。

 世界中の文化芸術活動が一斉にその気配を潜めまた2020年春、なんとか続けたいともがきつつも芸術文化活動は社会にとって重要ではないというような風潮も散見されました。
 当時はそのまま廃業した人もいたと思います。しかし今まさにこのような時代を通して、改めてこの壁画が伝えたいことを汲み取ってもらうことができると、芸術文化、そして先人達が残してきた伝統とは一体何か?という一つの問いが皆さんの心に届くかと思います。

 そんな想いをこの地域の住民の皆さんを含めた全ての壁画制作に関係する人と、この地を始めて訪れた人達とで共有してくれることで新たなコミュニケーションが生まれ、沢山の人が行き交う場所になってくれることが制作者としての何よりの喜びと励みになりますので、今後も南伊勢町神前浦の壁画にぜひご注目ください。
 
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歴史と文化、そして
新型コロナウィルスによる
伝統に対する影響を後世に伝えるという
メッセージも含まれた、本作品。
全長100mまで描き足された作品の完成は、
どのようなものになるのでしょうか。

たくさんの人が行き交う場所となることを
心から願っています。

長尾さん、ご本人による作品解説
ありがとうございました!

Column

アーティスト・Yoh Nagao-1

アーティスト・Yoh Nagao

長尾さんの活動、作品の数々について
詳しくはこちらのページをご覧ください。

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